お知らせ

2022.02.18

元 花農家「芦村利三郎」の妻、「芦村美恵子」役 北野雅子様を偲ぶ

映画『咲む』で、元花農家の盲ろう者の妻役でご出演いただいた北野雅子様が、2022年1月2日、永眠されました。
心よりご冥福をお祈りいたします。
北野様のご逝去を悼み、早瀨監督より追悼文をいただきましたのでご紹介いたします。

「思うようにやってみればいいのよ」
これは映画『咲む』の主人公の瑞月に盲ろうの夫を支える妻が優しく語りかけるセリフです。その妻役を北野さんが演じてくれました。このセリフは『咲む』の脚本執筆で悩み苦しんでいる私に北野さんが言ってくれた言葉でもあります。

これには続きがあります。
「ただ前に進むだけよ。きっと周りが助けてくれるから」
この言葉がどれだけ私の心の支えになったことでしょうか。たった一つの言葉が一人の人生の大きな糧となるということを心から実感しました。

瑞月のモデルは誰ですか?と聞かれたことがあります。ずっとモデルはいないと答えてきましたが、北野さんにお別れを告げた時にハッとしました。北野さんの顔に瑞月が重なって見えたのです。瑞月の明るさと意志の強さ、しなやかさ、周りを笑顔にして包み込む懐の広さ。ああ、そうか瑞月は北野さんの分身そのものだったんだと。
私は北野さんとの邂逅の中でモデルというものを超越して無意識のうちに『咲む』の中に北野さんを瑞月として生み出していたのです。

冒頭のセリフは妻役を演じた北野さんが自分の分身である瑞月に語りかけていたわけです。北野さんの人生はまさしく「ただ前に進み多くの方に助けられた」人生だったと思います。
あの透き通るような優しい笑顔を二度と見ることができないと思うと深い哀しみに襲われてしまいます。でも映画『咲む』のなかで北野さんは永遠に生き続けます。
これからもずっと、前をいこうとする私たちの後ろで北野さんが微笑みながら優しくエールを送ってくださることでしょう。

早瀨憲太郎